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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)90号 判決 1974年7月31日

(アメリカ合衆国ニュー・ジャーシー州)

原告

ジョンソン・アンド・ジョンソン

右代表者

ジョン・アール・マレン

右訴訟代理人弁護士

中村稔

外二名

弁理士

川瀬良治

外一名

被告

特許庁長官

斎藤英雄

右指定代理人

渡辺清秀

外二名

主文

特許庁が、昭和三八年三月一日、同庁昭和三六年抗告審判第三六六号事件についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和三三年九月三〇日、名称を「吸収性製品」とする発明につき特許出願をしたところ、昭和三五年九月一四日拒絶査定を受けたので、昭和三六年二月一六日、これに対する抗告審判の請求をし、昭和三六年抗告審判第三六六号事件として審理されたが、昭和三八年三月一日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年同月一三日、原告に送達された(出訴期間は同年七月一二日まで延長)。

二  本願発明の要旨

凝集力が比較的小さく、毛管力が比較的弱く、形状及び体積の安定性が比較的悪く、液体保持性が比較的低い非常に多孔質で弛く固めたセルロース質繊維の中入綿状物と、これに一体にその場所に造られて凝集力が比較的大きく、毛管力が比較的強く、形状及び体積の安定性が比較的良く、液体保持性が比較的高い紙状の緻密に固めたセルロース質繊維層とから成る吸収性製品の吸収材として使用するに適した吸収性繊維構造。

三  本件審決理由の要点

本願発明の要旨は前項掲記のとおりと認められるところ、原査定の拒絶理由に引用した特許第一五七、一三四号明細書(以下「引用例」という。)には、汚液保持用の内芯繊維層の表面に無数の細孔を有する防水薄層を設けた月経綿についての説明が図面と共に示され、請求人(原告)は、本願発明は、(1)内芯綿に吸収材を包含させていないこと、及び(2)表面の緻密層は何らの結合薬剤を使用しないで水を使用し、これに圧力を加えて形成したこと、の二点において引用例と相違すると主張するが、(1)については、引用例においては、吸収力をより一層増強するために特に添加したものにすぎず、その構成素材が本願発明のセルロース質繊維と同等の植物繊維で形成されたものであるから、吸収材を使用しなくとも本願発明と同様の作用効果を奏しうるものであることは明らかであり、(2)については、本願発明の要旨外の単なる製造工程における差異にすぎず、しかも使用液については本願発明の明細書中に殺菌剤、色素、軟化剤、サイズ材、接着剤等のような各種物を表面湿化に使用する水に含ませても良いと明記されていることから、必ずしも水だけを使用するものでもないと認められ、加圧することについては同様の吸収性製品において本願出願前既に極めて周知に属することにすぎないから(昭和九年実用新案出願公告第一三、三六五号公報参照)、これらにはいずれも発明を認めることができない。したがつて、本願発明は、保型力と毛管力を備えた無数の細孔を有する緻密外層を設けた引用例と同一発明に帰するものと認めるを相当とするから、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第四条第二号の規定により、同法第一条の特許要件を具備しないものである。

四  本件審決を取り消すべき事由

引用例に開示された技術内容が本件審決認定のとおりであることは認めるが、本件審決は、本願発明と引用例との対比判断に当たり、その構成及び作用効果上の相違点を看過誤認し、ひいて、本願発明をもつて引用例と同一発明であるとの誤つた結論を導いたものであり、この点において違法として取り消されるべきである。すなわち、

1  本願発明の構成は、前記本願発明の要旨から明らかなとおり、(A)凝集力が比較的小さく毛管力が比較的弱く、形状及び体積の安定性が比較的悪く、液体保持性が比較的低い非常に多孔質で弛く固めたセルロール質繊維の中入綿状物と、(B)これに一体にその場所に造られて、(C)凝集力が比較的大きく、毛管力が比較的強く、形状及び体積の安定性が比較的良く、液体保持性が比較的高い紙状の緻密に固めたセルロール質繊維層とから成る構造のものであるところ、一方、引用例の構成は、(a)植物繊維をほぼ扁平長方形に集積したものに吸水剤を含ましめた内芯綿、(b)内芯綿の全周面にパラフィン等の溶液を噴霧状に吹き付けた多孔性防水薄層及び(c)その全表面に層積した脱脂綿の三層から成るものである。

2  本件審決は、本願発明の(A)層と引用例の(a)層を、また、本願発明の(C)層と引用例の(b)層とを対比し、両者は同一発明であるとしたものであるが、本願発明の(A)層と引用例の(a)層とが同様のものであることは争わないけれども、本願発明の(C)層と引用例の(b)層とは、本願発明の(C)層がセールロース質繊維の紙状の層であり、毛管力が比較的良く、また、比較的高い液体保持性を有し、したがつて、吸水性を有するに対し、引用例の(b)層はパラフィン等を吹き付けて成る非セルロース質物質の多孔性の防水薄層であり、紙状をなすものではなく、また、防水性であり、液体保持力も毛管力も全く有しない点において、両者その構成及び作用効果を全く異にするから、本願発明と引用例とは比較すべくもないものといわざるをえず、したがつて、本願発明と引用例とを、同一発明をもつて論ずることは到底できない。

第三  被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、原告主張の事実はすべて認める、と述べた。

第四  証拠関係<略>

理由

原告主張の事実は、すべて当事者間に争いがなく、右事実によると原告の主張は理由があるものということができる。

よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 武居二郎 橋本攻)

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